呼吸器外科専門医合同委員会

The Japanese Board of General Thoracic Surgery

呼吸器外科専門医制度の運営に関する経費について

先の日本呼吸器外科学会評議員会にて呼吸器外科専門医制度の運営に関する経費、特に 呼吸器外科専門医更新に際する経費に関して質問がございました。
呼吸器外科専門医の方々、これから呼吸器外科専門医取得を目指している方々に広くご覧 いただけるようここに「呼吸器外科専門医制度の経理に関する説明」を提示いたします。

呼吸器外科専門医制度の経理に関する説明

呼吸器外科専門医制度の運営に関する経費は日本呼吸器外科学会と日本胸部外科学会双方の事務局による業務分担で成り立っているということと、さらにはNPO法人である両学会の事業会計に組み込んでいるために外から見るとわかりにくい会計となっている事は否定できません。しかし、あえてこのような形態としている事には学会事務局で処理できる事務量や税務の関係など、それなりの理由があることをご理解いただければと思います。もちろん、両学会ともNPO法人という立場から、多額の利益を生む事業の実施は大幅な課税の対象となるばかりでなく、そういった事業そのものが好ましいものとはいえないものであり、専門医制度の運営が法人を利するためのものではないことをまずご理解いただければと思います。

さて この専門医制度は2008年で5年目を迎え、言わばようやく一巡したところであり、これまでは手探り状態の大変未成熟なものでありました。専門医の申請状況につきましては、初年度にこれまでの認定医制度、指導医制度よりの大量の移行者がありましたが、その翌年からは年間70から100名程度の新規申請者を数えるのみとなっています。2008年は初年度の大量の移行者の初回更新の年となっているために800名程度の申請者を見込んでおりますが、当然のことながら5年間を通してみますとこの1年を除く他の4年における各年の申請者数は100名に至らない数になります。すなわち、2008年は一巡の5年間で特殊な年であることを認識していただかなくてはなりません。また、これまでの5年間は制度に修正に修正を重ねてきており、加えて当初の専門医の大多数が新規ではなく移行措置によるものであった事などから、この先の経理状況を推測するうえで必ずしも正しい情報を与えてくれるとは限らないものであり、説明をしても非常にわかりにくいものとなります。以上より、これまでの申請者数、年間の経費などを参考にして、制度運営のための経理につき、単年度ベースに平均した収支という形で以下にお示ししたいと思います。

まず、この制度を現在の形で運営していくために単年度で必要とされる経費について説明をします。事業の中でもっとも経費を要するのが試験に関わるもので、これまでの5年間の実績をもとにしますと、年間約600万円強を要する事がわかっています。これには試験会場費、採点などの業務委託費などのほか、試験に関する委員会経費、書類審査のための経費、合同委員会経費、認定証などの発行経費など全てが含まれます。このほかに、施設認定の作業や、それにかかわる委員会経費なども年間50万円程度必要となります。また、今後の経費増加の要因として実績の検証のための査察が加わる可能性があります。実績の検証のために手術記録のコピー(個人情報の部分は隠して)の提出を求めていますが、提出ができないとする申請者が多い場合は、誤りや不正防止のための何らかの検証の仕組みが必要となります。外科専門医制度ではこの仕組みを取り入れており、そのために年間100万円程度の経費を要しています。以上のような事業費の他に、管理費が必要となります。呼吸器外科専門医合同委員会は二つの学会の事務局に業務を分担委託している形になりますので、人件費、事務所スペース占有料、機器使用料、電気・紙などの消耗品使用料、通信費などのいわゆる管理費を両学会事務局に支払わなくてはなりません。この管理費をどの程度まで支払えるかは、収入額に大きく依存することとなります。

次に収入の方の説明をします。収入の計算根拠となる専門医数は、これまでの5年間の総計で約1300名程度となっていることがわかりました。また、新規申請者数はこれまでの実績をもとにして推定しますと、年間100名に至らない、おそらく70名程度になるものと考えられます。仮に70名としますと、合格率70%であれば、約50名が各年新規に認定される事となります。したがって新規申請者からの単年度収入は
 70名×5万円(申請料)+50名×5万円(認定料)=600万円
が見込まれます。
一方、全体の専門医数が1300名で維持されると仮定しますと、単年度では1300/5で260名が更新ということになります。しかし、専門医の総数が変わらないとした場合は新規認定者数50名分に相当する専門医の資格喪失者が出る事となりますので、その分を差し引いた210名が毎年更新をするということとなります。更新料を現状の5万円としますと、
 210名×5万円=1050万円
となります。したがって、単年度の収入としては
 1050万円+600万円=1650万円
の収入が見込まれます。この収入で制度の運営を行うわけですが、先ほどの説明のように650万円程度は必ず専門医試験と施設認定業務に関わる経費として不可欠ですので残りは1000万円ほどなります。これを二つの学会での管理費に充てるとしますと、それぞれの学会では人件費1名分(約300万円)とスペース占有料、機器使用料その他の経費はおおむね賄える金額となります。しかしながら、これまでの期間中に要求する手術実績数の増加や業績点数の増加などが求められ、専門医取得のハードルが高くなったことを考えますと、この先専門医数が漸減することが予想されます。総数としては1000名レベルにまで減少することが予想されますが、仮にそれをベースに収入を計算しますと、単年度の更新者数は1000/5の200名から新規認定分の50名を減じた150名にまで減少しますので更新申請料収入は単年度750万円にまで減少し総収入は単年度1350万円と大幅に減少します。この場合、必ず必要となる事業費650万円を減じた700万円が管理費に回せる金額となりそれぞれの学会事務局へは人件費プラスアルファにしかならない年間350万円に満たない管理費の配分となってしまいます。
仮に事務作業を日本呼吸器外科学会一カ所にまとめるとした場合、試験業務の経験の無い事務員の育成、あらたな人員の確保、作業スペース確保のための事務所の移転、スペース拡大に伴う経費の増加、新たな機器の購入など、年間経費の増大に加えて初期に大幅な出費が見込まれるため、現状の二学会での事務分担以上の経費を要することが推定され、必ずしも経費節減とはならないものと考えます。その場合は申請者の負担増あるいは学会年会費の増額等、なんらかの対応を図らなくてはならない事態も想定されます。
以上が、現状における制度運営の収支に関する説明です。現在の申請料(新規についてはさらに認定料)はこれをもとにして算出したものであるとご理解ください。

なお、総経費を誰がどれだけ分担すべきか、という議論には考慮をするべき余地は残されていると考えます。制度運営における経費のかなりの部分が新規申請にかかわる試験に関係するものであることを考えれば、新規申請者の負担を増加させ、更新のための申請料を減額するという方法も取り得ます。しかし、管理費についてはどちらにどれだけ費用がかかるという正確な分別が困難であるということ、また若い新規申請者にあまり大きな負担を求めるのは妥当ではないであろうという考えから、現状の費用分担が妥当性を欠くものではないと考えるものです。一方、この制度では施設認定に関しても申請料を徴収しています。その金額が低すぎるので、これを増額して個人の負担を軽減すべきだという考えも成り立ちます。現在5000円の申請料を、約230の基幹施設について5万円(5年間有効)としますと、計算上個人の更新申請料は4万円程度に減ずることができます。また、基幹施設のみでなく約420の関連施設にまで負担の増加を拡大しますと、同じく計算上は2万円程度にすることが可能となります。これに関しては以前にも理事会や合同委員会の場で議論がなされましたが、施設の申請料とはいっても現実的には個人が支払っている場合も少なくないとうことから大幅な増額には反対という意見が多かった事も事実です。しかしながら、昨今の医療事情の変化から、専門医制度に対する施設の考え方も大きく変わってきていることも考えられるため、施設の申請料の支払いに関する現状の調査を行ってみることを考えており、その結果によっては個人と施設の負担配分に関しても再考の余地があるものと考えます。

最後に他学会の現状ですが、学会により会員の規模、専門医数の数など大きく異なるため、単純な比較ができないのが実情です。しかしながら、原則としては専門医制度における専門医の総数が多ければ多いほど各個人の申請料などの負担は軽くできることになるのは、以上の経費の説明からも容易に理解していただけるものと考えます。

掲載:2008年8月7日